キャリア

データサイエンスプロジェクトにおける社外技術
の獲得【調査・契約編】

 

はじめに

データサイエンス関連のプロジェクトを進めるにあたり、社内の知見だけでは課題解決できないことがあります。
また、データサイエンスの技術進歩は速く、最新の技術で有望そうなものをいち早く社内に取り入れる必要があります。

 

そこで、事業会社のデータサイエンティスト(?)の仕事の1つが社外技術の獲得になります。具体的は、社外専門家を活用して有望技術を使いこなせるようにスキルアップ(または、他メンバーがスキルアップできる仕組みを作る)することや、共同研究開発した技術で業務フローを改善していくことです。

 

今回、外部研究機関との契約までの流れをまとめることにしました。
事業会社にコンサルテーションや技術を売り込みたいベンダー企業の方にも参考になるかもしれません。
(契約先機関の技術が魅力的で、転職してしまった方もいるとかいないとか🙄)

注意

  • 私の経験上の話になります。全ての会社、プロジェクトに共通するとは限りません。
  • データサイエンスの技術的な話は全くでてきません。

本記事の3行まとめ

  • データサイエンスの最新技術は社内にないことが多いから、社外に獲りにいく必要があるよ
  • 技術獲得までには、課題整理、社内調整、対外的交渉、稟議申請のための資料作成、根回し、など事務的な仕事が多いよ
  • 事業会社の「データサイエンティスト(という名で募集されている職種)」は泥臭い仕事も多いYo!

 

社外技術獲得の流れ

データサイエンス関連技術を社内に取り込む場合、以下のステップを踏みます。

社外技術獲得のステップ

  1. 予算確保
  2. 社内の課題整理
  3. 提携先調査、コンタクト
  4. 契約書作成・交渉
  5. 稟議申請・承認
  6. 共同研究開始
  7. 業務フローの改善(≒課題解決)

担当者はかなりの工数を取られます((笑))
技術面でのスキルアップはにはなりませんが、特許、契約、交渉について学ぶことができます。

ステップ1:予算確保

お金がないと始まりません💰
使える予算から、共同研究の期間や頻度が自ずと決まってきます。

 

担当者は来年度に向けてマネージャーに「○○という技術に興味がある。来年度、共同研究したい」とインプットしておき、過去の同様な案件から予想される金額をインプットしておくと良いでしょう。期中での予算申請は難しいため、共同研究を開始する昨年から唾を付けておきましょう。

 

有り難いことに、DX関連のプロジェクトは数年前では考えられない位の予算が付くことが多いです。データサイエンス分野で色々取り組みたい人には追い風ですね。

 

 

ステップ2:社内の課題整理

社内で抱える課題を整理します。

 

担当プロジェクトで抱える課題だけだと、共同開発費をペイできないことが多いです。
なので、部門で進行中の各プロジェクトの課題をヒアリング・整理して、多くの課題を解決できそうな技術を獲りにいきます。

(当然、自分の担当プロジェクトの課題解決が最優先ですが、、)

 

社内で広く活用できる技術を獲得できた際には、査定に大きなプラスになります💰
組織を強くする動きは、役職が上がるほど求められます。

 

 

ステップ3:提携先調査、コンタクト

解決すべき課題が整理されたら、マッチする技術を「どこで、誰が」研究開発しているか調査します。

 

情報源は、学会、論文、ウェビナー、調査会社、過去に築き上げたパイプなど様々です。
共同研究費が巨額であるため、調査費用はケチりません。

 

何人かの研究者に目星を付けたら、コンタクトを取り、面談を申し入れます。
社内が抱える課題とマッチしそうか探りを入れます。

 

面談では、社内で抱える課題が研究者の研究領域とマッチしそうかお伺いします。
ここで重要なのは、企業機密(製品情報、顧客情報、製法ノウハウ etc.)を出さないことです。なぜなら、の時点ではまだ秘密保持契約を結んでいないからです。後に作成する契約書の中に「秘密保持の条項」を入れます。

 

 

実は、研究者と接触する前にあるリストに名前が有るか調べる作業があります。いわゆる、ブラックリストですね^_^;

 

そこには、「過去に契約で揉めた。要注意人物」などの情報が載っています。そこに名前があれば、どんなに優れた研究者であっても、稟議承認されないです。(勿論、先方にも選ぶ権利がありますけど(笑))
プロジェクトを進めるにあたっての判断は以下です。

 

 

また、候補先の研究内容の概要が把握できたら、契約形態を決めておく必要があります。
契約形態には大きく2つあります。

✅コンサルティング
研究者から指導を受けて、自社で技術開発する

✅共同研究開発
お互いのリソース(人・物・金)を使って技術開発する

 

キーになってくるのは、情報開示と特許権の取り扱いです。コンサルティングの場合は、特許権を自社で独占できる可能性が高いです。しかし、自社の技術力が十分でない場合、大きな成果が望めません。共同研究開発の場合は、深いレベルまで技術開発できる一方、必ず論文を公にしないといけないため、技術を秘匿することができません

それぞれのメリット・デメリットを鑑みてどちらかを選択する必要があります。

 

ステップ4:契約書作成・交渉

さて、特定の研究者にターゲットを絞ったら、契約書の作成に入ります。このステップが一番大変です。
なぜなら、互い有利な契約にするべく画策するため、往々にして利害が対立するからです。
落とし所を探りつつ、自社の死守すべきラインを維持するための交渉が必要です

 

お互い譲らず、交渉が決裂することもあります。
要求を押し通すだけでは契約に至れないので、色々と作戦を練る必要があります。

 

✅各条項について、どのラインまでなら妥協できるか?

✅相手のカウンターオファーの一部を呑む代わりに、譲れない条件を呑ませる
痛くない条件を、譲歩して呑んだと見せかけることも必要

✅相手の要求の背景は何か?を想像し、自社の死守ラインを越えない代替案を提示する

 

これこそ、AIにはできない仕事かもしれません。
データ解析の数理的な考察よりも四苦八苦しました。。😅

 

こういった交渉は、技術者は不得意なので、法務部、知的財産部と相談しながら進めることになります。

 

契約書は自社の雛形、もしくは相手方の雛形をベースに作成していきます。(参考:東京大学産学協創推進本部 共同研究契約書

特許権について特に交渉が難航する、、

交渉が難航するのは、特許権についての事項です。

 

これは知財に対する考え方が企業と大学を含む研究機関で大きく異なるためであると思われます。揉め所は様々ですが、特許の維持費は負担したくないが、権利は50%持ちたい」や「第三者実施を相手に断りなく実施可能にしたい!といった、特許法の原則から外れることをビジネス上要求せざるを得ない事情があるからです。

 

<企業における知的財産の目的>

<アカデミアにおける知的財産の目的>

 

出典:電機通信大学 知的財産本部 企業と大学の特許戦略の相違

 

エンジニア、研究者どうしは、「契約とかいいから、早く技術的に面白いことやりたい!」と内心思っているんですが、
そういう訳にもいかないところが社会ってもんですね(笑)

ステップ5:稟議申請・承認

さて、契約内容に合意できたら最後の難関、稟議申請です。

 

契約金額次第ですが、場合によっては役員決裁が必要になります。
説明資料を作って、意義を説き、承認を取り付けます🙇‍♂️

 

往々にして、技術の詳細説明は不要です。概要とどう組織が強くなるのかを説明します。
稟議を通す過程で事前に上司に資料を確認いただいたりと、調整は必要になります😅

 

 

稟議申請が通り、契約書を先方に送り、双方で調印したら、ようやく締結完了です。
電子契約でなく、紙の場合、契約書の製本ルールがあるのでご注意ください。
知らなかったので、ホッチキス止めで送りそうになりました

 

 

これで、ようやく共同研究を開始できます。ようやくGPUをぶん回せます。
共同研究で得た技術を活用して、業務フローを改善していく話は別途書きたいと思います。

 

契約業務を担当したメリット・デメリット

さて、お分かりのとおり、ここまでかなりの工数を要しました。
私が感じる、これらの業務を行うメリット・デメリットは以下です。

(メリット・デメリットを天秤にかけて業務を選べる身分ではないですが、、)

 

✅メリット

  • 役員に顔を覚えてもらえる
    良くも悪くもDX関連のプロジェクトは注目されます。
    会社の中で生きていくには、上役に顔を覚えてもらって損はないはず。
  • 業務フローの改善を達成できれば査定UP!
    担当プロジェクトだけでなく、社内に広く活用できる技術を獲得できれば、「組織を強くした」という観点で評価されます。
  • 興味のある技術に関わることができる
    自ら探してきた技術なので、やりがいもひとしお。
  • 契約、交渉、法律について実務を通して学べてた
    実務で必要に迫られ、周囲に揉まれながら勉強するのが、一番身に付きます。
  • ブログネタができた
    ネタにできるものはなんでもネタに。

✅デメリット

  • 技術研鑽(データ解析、AI実装 等)に割ける時間が少なくなる
    事務仕事が多くなるため、データやPythonと向き合う時間が少なくなります。
  • 技術以外のことでストレスが溜まる
    「あの人を説得するためには~といった資料の作り方が必要」など、人を説得することに頭を悩ませる機会が多くなります

    この手の業務は、相手の反応を予想して、返しを仕込んでおくことが必要になります。回帰分析をマスターするよりも難しいかもしれません。

 

最後に

事業会社のデータサイエンティストに就職すると、この手の泥臭い仕事もあります。
事務仕事よりもデータ解析しているほうが正直楽しいです。
しかし、前向きに取り組めば契約や法律について学ぶことができます。
今後、この手の業務に取り組まれる方や、事業会社のデータサイエンティストに転職を考えている方の参考になれば幸いです😀

 

参考資料

昭和三十四年法律第百二十一号 特許法

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マルチンゲール

材料工学専攻 ▶大手メーカーで生産技術▶データ解析の技術者派遣▶大手メーカーでデータサイエンティスト | データ解析やキャリアについて発信します|特許登録8件、経産省AI Quest2期修了

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